わらびの日誌

Please forget me not, but I'll forget you. So it goes.

エッセイ

おまえの興味ないときの顔

ゼミの先輩がじっとわたしの顔を見るので「なんですか?」と尋ねると、口を軽くむすんで無表情になった。 「これがおまえのなんもないときの顔。それからおまえの興味ないときの顔」 そう言うと、先輩は口を半びらきにして、視線だけをこちらにむけた。あら…

感情に焼かれる

すきなものをすきでなくなるときに湧き起こるような、後頭部から力が抜けていく感覚に身をゆだねたままでいたら、なにもおもわなくなっていた。正確には、なにかをおもって考えるのだけれど、ことばが外に出ていくまえにわたしのからだのなかで消滅してしま…

ロマンティックはお断り

後輩が指輪をもらった。ダイヤがちょこんとあしらわれた、シンプルで綺麗な指輪だった。わたしもこんなふうに指輪をもらう日がきたらめっちゃ嬉しいんやろうな、と恋人が指輪の入ったふかふかした箱をおもむろに取りだすシーンを想像してみて、いやちょっと…

さらば友よ

高校生のときに部活がいっしょだったともだちのLINEのアカウントが一覧から消えていることに気づいて、もう会うことはないのだなと悟った。いまどきの旧友というものはLINEのアカウントがわからなくなってしまえばあっというまに今生の別れである。さらば友…

横顔

すきなひとの横顔を間近で見られるのは恋人としての特権だとおもう。遠くから眺めるのは誰にだって許されている行為だけれど、すぐ隣からとなると別だ。いっしょにゲームをするとき、手をつないで歩くとき、並んで眠るとき。ひょっとしたら恋人というのは正…

コットンキャンディ

松尾橋の信号を待ちながら、ふと、ちいさいころはあんなに綿菓子が欲しかったのに、いまはぜんぜん興味がないなとおもったのだった。三が日やお祭りの日の神社の参道に並ぶ屋台の、アニメなんかのキャラクターが描いてある大きな袋に入った綿菓子。あのよう…

愛の精度

たいへん甘ったれた性格をしているので、わたしはすきなものをすきだと言うひとのことがすきだし、わたしのすきなひとたちはみんなすきなものをすきだと言って呼吸をしていてほしい。 魚は変温動物だから人間とおなじような体温はないのだけれど、京都水族館…

ぷらぷら

原付を運転しているおとこのひとのヘルメットのベルトがぷらぷらと揺れているのを見ながら、魂ってからだのどこに入っているのだろうかと考えていた。もちろん、あたまを怪我したら死ぬ確率が上がってしまうからヘルメットをかぶるのだけれど、心臓がとまっ…

夏ははじまる

物が壊れるように世界をつくった神さまは、ちょっと意地悪な気がする。壊れるというのはかたちが変化するということだから、それなら物が永久に壊れずに一定のかたちをとどめているほうが楽だったんでないかとおもえて「物が壊れる 神」なんててきとうなキー…