わらびの日誌

Please forget me not, but I'll forget you. So it goes.

楽ちん

今週のお題特別編「この春に始めたいこと・始めたこと」〈春のブログキャンペーン 第2週〉

 4月9日、22歳、無職である。新卒という期間ならこのあいだ終えてしまった。就活関係の授業をとったり数学の復習をしたりして準備はしていた。けれどもいざ就活がはじまってみると、ものを書いて生きていきたいけれど先立つお金がないと困るからなんとなく就活している芸大生になっていたのだった。そうやってこれからの生きかたを考えているうちに指を怪我して病院通いすることになり、卒業制作の追いこみをかける時期がやってきて、二度目の指の手術をするのに入院し、卒業制作展の搬入に明け暮れ、無事に大学を卒業して、きょうにいたる。

 4月1日は6時に起きた。服を着替え、朝食をたべ、歯をみがき、顔を洗う。どこにも行かないのに化粧もすませた。そして、きょうなんかやっとくことある? と鼻息を荒くして母にきいてみる。無職、ではなく、家事手伝い(無職)、という肩書きを手に入れるためだ。それに、お金を稼がなくてもいい立場にいるはずの母がパートに行っているのに、なにもしないでただ家にいるだけというのはおかしいことのようにおもえた。

「せやなあ、特にないわ」

 きょうこそ家事やったんねん! と強くおもっていただけにわたしは拍子抜けしてしまった。いつもよりも出勤時間が遅かったので家事はほとんど済ませてしまったという。洗濯も、もちろん雨が降っていたのでできなかった(というのは、4月1日は入社式の日で、わたしの学年に関係する行事がある日はきまって天気がわるいのだ)。ほなちょっとしか残ってへんけど食器洗っといて、と言って母は颯爽とパートに出た。そもそも、早寝早起きで、下手をすれば4時に起きて録画しておいたドラマを見ながら家計簿をやっているようなひとなのだ。たかが6時起きでは母に勝つことなどできなかった。

 とりあえず言われたとおりにシンクに残された食器を洗う。つぎの日も、そのつぎの日も、シンクに食器があれば洗った。いちにちのはじまりを食器洗いに費やしていると、冬から春にかけてやっていた月9ドラマ「デート ~恋とはどんなものかしら~」に出てきた高等遊民の姿があたまのなかをよぎった。それから、藪下依子のおかあさんが胃癌を胃潰瘍と嘘をついた理由について語ったときの台詞を思い出す。〈違うね。あなたのためを思ってなんかじゃないよ。ほんとはさ、こんなふうに泣かれるとわたしが面倒くさいから。あなたに嘘をついているほうが、わたしが楽ちんだったのよ。ごめんね。おかあさんの自分勝手で。最後まで騙されてくれてればよかったのに〉。わたしも母のためでなく、きもちを楽ちんにしようとして食器を洗っているのだった。母がこのような自分勝手な事情に気づかなければいいとおもうけれど、勘のするどいひとなのでもうわかってしまっているのだろう。

 4月9日、22歳、無職である。きょうは派遣に登録した。うまくいけばそのうち仕事がめぐってくるらしいくらいの軽いきもちで、これからもしばらくのあいだは朝6時に起きて食器を洗う生活を送る。

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