リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』
リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』
――ちぐはぐな体をひとつにして
- 作者: リチャードブローティガン,Richard Brautigan,青木日出夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2002/08
- メディア: 文庫
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ときどき、わたしの体を動かしているのは別の誰かなのではないかとおもうことがある。その別の誰かというのもふくめてじぶん自身と呼ぶのかもしれないけれど、こうやって考えているいまも別の誰かが脳みそを操作してわたしにものを考えさせているような気がしてしまうのだ。この違和感は眠れない夜にあたまのなかが冴えていく感覚に似ていて、なんだか苦手だった。
「私」が住みこみではたらいている図書館にじぶんの体について書いた本を持ってきたヴァイダは〈「わたしは自分の体が憎いんです。わたしには大きすぎます。だれかほかの人の体なんです。わたしんじゃない」〉と言う。大きな胸、細い腰、豊かなおしり、長い脚なんて、女性なら誰もが羨ましがる抜群のスタイルだとおもうのだけれど、〈ほんとうのわたしでないものに這い寄られ、吸い取られ〉たという体は周囲の注目を浴び、いじめや性的な視線といったかたちで彼女を苦しめてきた。彼女に見惚れていたせいで運転を誤って車ごと汽車につっこんで死んでしまった男もいた。「私」は、あなたの体が美しいのは真実なのだからじぶんの体を美しいと認めて慣れてしまったほうがいいのではないかと提案する。ヴァイダは「私」といっしょにいるのは気分がいいと言う。ふたりは恋人同士になった。
このあとヴァイダは妊娠し、ふたりにはまだ子どもを持つ用意ができていないという理由で堕胎を決意する。堕胎医のガルシア先生をたずねてティファナにむかう道中で、彼女はこれまでとおなじようにひとびとの視線を集めるけれど、以前ほどの嫌悪感はないようだった。「私」の提案どおりじぶんの体の美しさに慣れていったのかもしれない。そして、彼女は堕胎してじぶんの体のなかにいたじぶんではない胎児を体の外に出した。
ふたりが戻ってきたとき、留守番を頼んでいたはずのフォスターが図書館の前にすわっていた。「私」がいないあいだにやってきた女性が図書館の仕事をすることになったのだった。「私」とヴァイダは新たな居場所で生活をはじめる。