わらびの日誌

Please forget me not, but I'll forget you. So it goes.

世界のてっぺんから眺めるみたいに

今週のお題ゴールデンウィーク2016」

TRIPS!⑤世界のてっぺんから眺めるみたいに

 会いたい、といわれたら会いにいく。それができる年齢になってからは、会いたい、といわれたらすぐに予定をたてるようになった。時間がたてばたつほど、会いたいひとに会いたいといわれなくなって、こちらからも会いたいといわなくなって、そのままずるずると会えなくなってしまうかもしれないから、おたがいの熱が冷めないうちに会うのである。だから、ゴールデンウィーク最終日に恋人とのデートもかねて叡電に乗りこんだ。八瀬比叡山口にむかう。この電車に乗るひとはどこにいこうとしているのだろうとふしぎにおもっていたのだけれど、ケーブルの駅のまえまできてこの先に延暦寺があることをおもいだした。延暦寺には学生のころに行ったことがあるのに、そのあとのワークショップで人間がとおった形跡のない山道を歩いて大学に帰ったことばかり覚えていてすっかり忘れていた。でも、ケーブルに乗ったときのからだの重心がずれる感じと、ロープウェイに乗るひとびとの密集具合は覚えていた。比叡山頂に着くころ、音が遠くなって耳の奥がきいんとした。とても高いところにきた。

 ロープウェイを降りてすぐのところに目的地のガーデンミュージアム比叡がある。いろいろな花が咲くなかに陶板にうつされた絵画がならんでいる。絵はぜんぜんわからないのだけれど、印象派画家の絵画が展示されているらしい。青い花があつまって咲いているところがなんだか幻想的で、こんな景色を小説に書けたら、とおもう(なばなの里の青の光のトンネルでもおなじことをおもった)。展望台からは京都と滋賀の町がみえた。高いところから眺める町は模型みたいでとても人工的だった。そのなかでひとびとが愛しあって、家族ができて、仕事をしているなんて、知っているはずなのにいまいち想像がつかない。

 カフェでカタラーナはアイスなのかプリンなのか考えたあと、会う予定のともだちを探しに庭園を歩いていたらコーラスのひとたちがピアノ伴奏にあわせて「With you smile」という合唱曲をうたっていた。〈この広い世界の中でめぐり逢えた〉。出会う/出逢うことはかんたんだけれど、関わりをもつという意味でめぐり逢うというのはとんでもなく難しい。そういえば、会いにいこうとしているともだちをともだちとおもったのも出会ってから2年後のことで、たぶん大学のゼミがいっしょにならなかったらどんなひとなのかも知ることはなかった。

 ともだちはミュージアムショップにいた。人見知りだからうまくしゃべれなかったけれど、また会えそうだった。会う、をくりかえせるのは良いことだ。ともだちと別れたあと、ステンレス製の睡蓮のしおりを恋人に買ってもらった。ちなみに、恋人とともだちは誕生日がおなじである。だから誕生日占いを信じるのはやめた。

 帰りのロープウェイに乗るまえ、また耳の奥がきいんとした。ロープウェイ、ケーブル、叡電、バスと乗りかえるごとに、模型にみえた町がじぶんのよく知っている町に戻っていく。

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