わらびの日誌

Please forget me not, but I'll forget you. So it goes.

愛を剥ぐ――2016年夏、エロティック映画を4作品見る。

今週のお題「映画の夏」

 ことしの6月くらいから、なぜひとはセックスをするのだろうかと考えている。とてもベタな疑問のくせに、なかなか答えがでない、やっかいな問題だ。恋人と愛を確かめあうためやん、すきやからえっちするんやろ、とおもっておくのが楽ちんなのはわかっているのだけれど、そんなかんたんなことではない気がして(というか日常生活ではそれで充分なのだけれど、なにかを制作するうえではそんなかんたんなことにしたくなくって)、うだうだと考えつづけている。

 そこで、制作もひと区切りついたのでエロティックな映画を見てみることにした。愛、というものを剥ぎとりたくて。それぞれの愛、なんてだれかの愛のかたちを認めないようなことをいいたくなくて。

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① 愛の渦 

ここにそんな綺麗事なんてないから!
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  男が、女が、あるマンションの一室の扉をあける。そこで繰り広げられるのは乱交パーティーだ。性欲を満たすためだけに集まった8人の男女は名前も知らない相手とセックスする。まずはこのひとと、つぎはこのひとと、相手を変えて性交を重ねていく。

 誰でもよくて乱交パーティーにやってきたはずなのに、あの常連の女とはやりたくない、デブの童貞がここにいるなんておかしいと文句を言いはじめる。徐々に言い争いになり、おまえなんてそんなにかわいくない、おまえの性器が臭いって男たちが迷惑がっているなど、醜さが増していく。彼ら・彼女らの性欲はただセックスするだけでは満たされず、たとえばかわいいおんなのことセックスしたとか、あんなにおおきなペニスで突かれたとか、そういったステータスもいっしょに満たさないければ消化することができないのだ。そして、この部屋でのセックスに愛は必要ない。ニートが女子大生に恋するけれど、恋も発生させたところで無意味で、未来につながるものはなんにもない。この部屋にはそんな綺麗事なんてないのだ。

 

② 私の奴隷になりなさい

愛してもくれない男の奴隷になる理由とは?
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  主人公(ヤリチンのナンパ野郎である)は中途採用された会社で出会った香奈(人妻で夫は大阪に赴任中)を例によって口説くが、ちっとも振りむいてもらえず、邪見にされるばかりだった。ところが、ある日「今夜私とセックスしましょう」と香奈からメールが唐突に送られてくる。主人公はその日以来香奈と関係を持つ。

 これから大阪に行くという香奈に呼ばれ、主人公は香奈の家で留守番することになる。留守番中、主人公は謎の男(先生と呼ばれている)に調教されている香奈の姿がおさめられた映像を目撃する。香奈はただ不倫しているだけでなく、先生の奴隷なのだった。そして、主人公は先生と香奈のプレイにまんまとひっかかったのである。

 先生は香奈のことを愛していない。けれど、ただ凌辱して痛めつけているわけではない。プライドが高くてつまらない女だった香奈を綺麗にするために隷属を与えた。じぶんに執着させることで、香奈が抱いていた仕事や夫に関するしがらみを消しさったのだ。香奈も綺麗になることを望んで先生に従うことにした。ある意味で潔くって、ある意味でひとりよがりな関係は、主人公の目のまえで終焉のときをむかえる。

 

③ 空気人形

私は空気人形。性欲処理の、代用品。
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 秀雄が仕事に出かけていった誰もいない部屋で、のぞみと名づけられたラブドールは動きだした。こころをもったのである。のぞみはレンタルビデオショップで働いたり、店員の純一に好意をもって出かけたりするようになる。いっぽうで、家に帰ればすきでもない秀雄に触れられることに嫌悪感を抱くようになった。あるとき、レンタルビデオショップで手に穴をあけてしまい、のぞみから空気が抜けていくのを純一が目撃する。純一はへそにある穴から息を吹きこんでのぞみを救う。

 誰かの代わりであることをひとは嫌う。誰かの代わりでもいい、なんて言うひとほど苦しくなる。セックスが一番大切なひとと行う行為だとしても、のぞみはラブドールであるがゆえに誰かの一番にはなれない。のぞみ、という名前も秀雄の元恋人の名前だった。だからこそ、のぞみは純一に息を吹きこんだ。純一を生かす存在になりたかった。あの日純一がへその穴からじぶんに息を吹きこんでくれたように。もちろん人間である純一のへそに穴はあいていない。

 

④ ふがいない僕は空を見た

どうにもできない切実な恋をした。
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  同人イベントで出会ってから、高校生の卓巳と人妻であるあんずはコスプレセックスするようになった。卓巳はすきなひとに告白されたのを機にあんずとの関係に終止符を打とうとするが、ベビー用品売り場でちいさな靴下をながめているあんずを見てから、あたまのなかがあんずでいっぱいになっていくことに気づく。しかし、あんずが夫との子どもを産むためにアメリカに行くことになり、ふたりの関係は終わってしまった。

 卓巳の恋心が進行する裏で、あんずこと里美は不妊に悩まされていた。なかなか子どもができないことを姑にけなされ、ときには怒鳴られたり泣きつかれたりした。家に仕掛けられていた監視カメラで卓巳との関係が発覚し、事態は悪化する。里美は体外受精のためにアメリカへ、そして監視カメラの映像はネット上にばらまかれ、卓巳はいじめのターゲットになる。

 最後のセックスで、卓巳は「あんず、好き」と言う。誰にも代えられないセックスをしているのに、ふたりは結ばれない。あんずが妊娠することもない。こんなに悲しいことってないんじゃないかとおもうくらい、卓巳とあんずのセックスは悲しくて、どこにもいけない。その傍らには、勝手にセックスして勝手に産まないでほしかったと苦しむ福田と、産まれた子ども・死んだ子ども・すべての子どものことを祈る助産師である卓巳の母がいる。

 

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 エロティックな映画をほぼぶっつづけで見ていて気づいたことがある。ごくあたりまえのことなのだけれど、セックスはひとりではできなくて、人間関係のうえで成り立っているということだ。だから、欲望がつのったり、関係がもつれたり、空虚なきもちにさいなまれたりするのだろう。もしかしたら、ひとり、という孤独感への恐れから、ひとは抱きしめあうのかもしれない。