わらびの日誌

Please forget me not, but I'll forget you. So it goes.

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Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」

 母は大阪の実家に行くから今晩の夕食はつくれないという。恋人は用事があるから今晩の夕食はわけてやれないという。家に母がずっといる生活・恋人の家にいけばごはんがもらえる生活をしてきて、料理というものをこれっぽっちも覚えなかったわたしにとって夕食がないというのは緊急事態であった。星のカービィみたいにそこらに落ちているものを拾い食いするわけにはいかないし、ゼルダの伝説みたいに鍋に食材を放ればあっというまに料理が完成するということもない。困ったなあとおもいながらも、同時に、家にだれもいない夜を過ごしたことがあまりなかったから、それはそれでたのしみだったのである。

 お金を浮かせるのに家にある冷凍食品をたべるか、すき家のチーズ牛丼ミニつゆ抜き明太マヨトッピングも捨てがたいなとおもいつつ、以前恋人がつくってくれた無印良品のバターチキンカレーとナンがたべたくなったのでじぶんでもつくってみることにした(なお、すき家にとりマヨ丼があればとりマヨ丼一択であった。ジャンキーで不健康そうなたべものがとってもすきなのだ)。

 仕事おわりに無印良品とスーパーで必要なものを買って、帰宅後さっそくつくりはじめた。料理はほとんどしたことがないけれど、学生のころにファストフード店でアルバイトをしていたから手際には妙に自信がある。カレーのキットとナンのキットに書いてある手順を照らしあわせて、先にカレーから準備して、カレーを煮込んでいるあいだにナンをつくるのがよさそうだとおもった(無印良品のカレーはレトルトで温めるだけのものと調理するものの2種類があって、わたしが買ってきたのは調理するほうだった)。カレーはスーパーで買ってきた鶏肉を切ってキットの中身とあわせて煮込むだけなのでとってもかんたんなのだけれど、さあ煮込むぞとおもって鍋を探すとどれも使いさしで、やっと見つけた取っ手のとれるティファールには取っ手がついていない。5分くらいかけて取っ手ようやっと見つけたら、こんどは蓋がない。じぶんの家のものなのにどこにあるかわからないなんて情けないけれど、キッチンというのはふだんわたしたち家族のために料理をしてくれている母の城であるからしかたがない。もしかしたら、料理に苦手意識があるのは食材の切りかたのような技術面がわからないのもあるけれど、キッチンというだれかの領域に踏みこむことに気後れしているからなのかもしれない。

 鍋を発見してカレーを煮込みはじめる。つぎはナンである。キットの中身と水をあわせてサラダ油を入れてこねるだけだ。はじめは手につくけれど混ぜているうちに生地がまとまってくる、とキットには書いてあるのにずっと手につく。いくら混ぜても手につく。サラダ油を入れすぎたのかもしれない。あるいは入れなさすぎたのかもしれない。けっきょく生地がまとまったのかわからないまま、手にへばりついている生地をはがしつつナンを平べったくしていった。フライパンに生地がついてしまうかもしれないとおもっていたけれど、焼く工程はスムーズにできた。手間取ったのはフライパンの蓋を探したことくらいだ。

 やっとのおもいでつくったバターチキンカレーはとても美味しかった。あたりまえである。キットの時点で味が整っているのだから失敗のしようがない。ナンのほうは生焼けになることもなくふわりと焼けていた。こういうものをキットではなくてじぶんで調味料などをあわせてつくることができたら格好良いだろうなとおもいつつ、キットは楽ちんでいいなあともおもう。中学生のころに同級生のおとこのこが亡くなって、14歳でもひとは死ぬのだと知って、一時期親孝行とおもって毎週土曜日に母に教えてもらいながら夕食をつくっていた時期があった。けれどもわたしはなかなか覚えないし、母もわたしなんかに教えるのよりもじぶんでつくったほうがよっぽど楽なんじゃないかとおもえてきて、3か月くらいでやめてしまった。こんどこそ、複雑なものでなくていいから料理を覚えようとおもう。それから取っ手と蓋のありかも。そのうちすきなひとにごはんをたべさせる生活をするのだから。

 夜遅く、母が大阪から帰ってきて、バター臭い、と言った。母は乳製品が苦手で、バターのにおいもすきではないのだった。

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