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わらびの日誌

please forget me not, but I'll forget you. so it goes.

10円玉/紫色の痕跡/今夜8時になれば

今週のお題特別編「子供の頃に欲しかったもの」〈春のブログキャンペーン 第3週〉

 小学1年生の七夕の日にいまの家に越してきた。そのころ、右隣の家にはマルチーズがいた。ちいさくって、白い毛がやわらかそうで、散歩のときにちょこちょこと歩く姿がかわいくって、動物にはあまり触ったことがなかったから怖いというきもちもあったけれど、ひざにのせたり、いっしょに遊んだりしてみたかった。クリスマスにほしいものは犬(できれば右隣の家とおなじマルチーズ)で決まりだった。母に見つからないようにサンタさんに手紙を書いて、枕元に置く。手紙に書いたものを魔法の袋からさっと出してプレゼントしてくれるサンタさんでもいきものを出すのは大変だろうから、手紙には10円玉もそえた。寝たふりをしてあたまから布団をかぶる。サンタさんはどこからきはるんやろう、どんな顔してはるんやろうとおもって、掛け布団と敷布団のあいだにすこし隙間をつくって部屋のようすを観察する。そうしているうちに眠ってしまう。

 目が覚めても犬はいなかった。手紙は置きっぱなしになっていて、そえていた10円玉とひきかえに、文章の最後に紫色のクエスチョンマークがつけくわえられていた。お願いは聞き入れられなかったけれど、サンタクロースの国のひとは紫色で文字を書くのだとか、日本語は読めるけれど書くことはできないのだとか、紫色の痕跡ひとつでサンタさんがどういう人物なのかを想像した。それだけで楽しいきもちになれた。つぎの年のクリスマスに、サンタさんはおとうさんなんやで、と父が自白したからあのクエスチョンマークに特に意味はなかったのだけれど。

 その十数年後のクリスマス・イブ、ロフトで買ったサンタさんの格好みたいなワンピースを着る。魔法の袋は持っていないので、ヨドバシカメラのビニール袋を持つ。歌では〈今夜 8時になれば サンタが家にやって来る〉だけれど、昼間から家に遊びにいく。たぶん、サンタさんがほんとうに存在するのかどうかはあまり関係ない。きょうは特別な日なのだといいきかせて、恋人にプレゼントを贈る。

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