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わらびの日誌

please forget me not, but I'll forget you. so it goes.

きみを忘れに嵐の中を歩く

今週のお題「雨の日グッズ」

TRIPS!⑩きみを忘れに嵐の中を歩く

 これでもかというくらいスヌーピーがちまちまと描かれている傘を買った。ジャンプ傘だと気づかずに買ってしまったことはすこし後悔しているけれど、やっぱりスヌーピーはかわいいし、ゆるりとしているし、とても気に入っている。

 薄暗い雨空のしたで傘をさすとき、傘のことを、避雷針、となんとなくおもう。それから、メレンゲの「8月、落雷のストーリー」をおもいうかべる。

 「8月、落雷のストーリー」は〈きみを探しに嵐の中を歩く〉という歌詞ではじまるうただ。雨のなかでなく、嵐のなかを歩くなんて大胆なことをする。きっと、台風みたいなどしゃ降りのなかを歩いているのだ。でも、この曲の主人公はあまり強気じゃないみたいで、〈嵐の中はそれはもうとてもとても寒いから すぐに引き返すんだろうな〉なんておもっていたりする。歩いていくうちに落雷が鳴りはじめて、落雷が音よりも先に光って綺麗なのが「きみ」みたいだなあとおもう。クボケンジさんのセルフライナーノーツには《雷の持ってる特徴みたいな所を初恋みたいなものに重ねてみました。雷って音より先に光るでしょ?、で、何秒後かにドーンって。初恋ってそんなもんじゃないかしら。》と書かれているので、どうやら主人公が探している「きみ」というのは初恋の相手らしい。(本文とは関係ないけれど、クボさんのセルフライナーノーツはとってもキュートでいとおしいのでぜひほかの楽曲についてのコメントも読んでみてほしい。「君に春を思う」の《「愛してる」って言ってみたかったのです。》なんてかわいすぎる。merengue / メレンゲ「星の出来事」|ワーナーミュージック・ジャパン

 とてつもなくかんたんなことばで言ってしまうと失恋ソングなのだけれど、この曲のかなしいところは先述のとおり主人公があまり強気じゃないところだ。主人公は「きみ」のことをずっと覚えているよなんて嘘でも言えないひとで、〈8月の終わりのこの雨もいつか止む/君がいなくなった僕の この気持ちさえ/それのようにどうせなくなっていく〉ことに気づいてしまっているのだった。すきなひとがどこかにいってしまったからって忘れてしまうなんてありえないとおもうかもしれないけれど、人間は確実にすこしずつ忘れながら生きているし、そうでないと息苦しくて生きていけないから、主人公はいつか「きみ」のことや「きみ」をどれだけすきだったかおもいだせなくなる。恋のなかでも初恋は一過性であるから、「きみ」のことをふっとおもいだしたころにはきっとほかの誰かをすきになっているのだろう。

 〈きみを忘れに嵐の中を歩く〉なんてさびしいことを言いながら、主人公は避雷針を片手にもって「きみ」を探している。「きみ」を忘れるときまでずっと探している。

 スヌーピーの傘の柄をぎゅっとにぎりしめて、小雨のなかをピアノ教室まで歩いた。雷は鳴ったりしない。

 

星の出来事

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