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わらびの日誌

please forget me not, but I'll forget you. so it goes.

乾くるみ『イニシエーション・ラブ』×サタミシュウ『私の奴隷になりなさい』

乾くるみイニシエーション・ラブ』×サタミシュウ私の奴隷になりなさい

――未来に捧げる恋をしよう。
イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

 

私の奴隷になりなさい (角川文庫)

私の奴隷になりなさい (角川文庫)

 

  このひとじゃなきゃ嫌だとか、あなた以外のひとをすきになるなんてできないとか、とんだ我儘だけれど、ひとをすきになると無謀にもそんなことをおもってしまう。でも、その恋が実らなくても、ほかのだれかをすきになってしまっても、わたしはもう駄目だとじぶんを嫌わなくていい。だって、その恋はこどもから大人になるための、通過儀礼としての恋(イニシエーション・ラブ)なのだから。

 〈イニシエーション・ラブ〉ということばは、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』の主人公・鈴木ののちの浮気相手・石丸美弥子の台詞に登場する。〈「もし鈴木くんとマユちゃんと関係が、そのイニシエーション・ラブなら、私にもまだチャンスはあるかなって」〉……そう言って石丸美弥子は悪戯っ子のように微笑むのである! ここまで鈴木と繭子の恋愛物語をたのしんでいた読者は、なんちゅうことを言うんや、さっさと鈴木から手をひかんかい、とおもうはずだ。すくなくとも、ふたりの恋を通過儀礼にすぎないなんて、ひどすぎる。けれど、鈴木と繭子は別のひとの手をとって生きていくことになる。

 現状の関係をつづけないという点で、サタミシュウの『私の奴隷になりなさい』の香奈とご主人様の関係もよく似ている。ご主人様は、香奈がもつつまらない執着のせいでうまくいっていなかった家庭や仕事をいい方向にむかわせるために、わざとじぶんとのSMプレイに執着させる。それってプレイの言いわけなんとちゃうか、とおもってしまいそうになるけれど、実際に香奈の家庭も仕事もうまくいくようになっているのだった。ご主人様は〈治療〉をおえた香奈を解放することにする。しかし、香奈のほうはご主人様から離れたがらなかった。きっと、恋に似た感情を抱いていたのだとおもう。

 初恋は練習不足なだけだし、実らなかった恋は失敗じゃない。忘れなくていい。足もとに散らばった恋は、未来に捧げるための恋なのだ。だって、ユーミンの歌詞にもあるもの。〈傷ついた日々は 彼に出逢うための そうよ運命が 用意してくれた大切なレッスン〉って。