かしわ哲『アイシテル物語』
今週のお題「人生に影響を与えた1冊」
かしわ哲『アイシテル物語』
――そばにいるだけでいい
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恥ずかしくなるくらいませた子どもだった。小学1年生のころ、本屋さんで「なんか本買うてあげるで」と両親に言われて手にとったのは青い鳥文庫の『アイシテル物語』だった。アイシテルって恋愛の愛してるでしょ、なんておもったのをいまでも覚えている。鼻息を荒くしてページをめくる。想像していたような恋愛のはなしではなさそうだ。けれど、〈そうです。この物語は、てんでばからしくて、ジョーダンにもならないのかもしれません。しかし、この物語の一ページをひらいてしまったあなたは、もう、てんでばからしくて、ジョーダンにもならないと、わらってばかりいられないのです〉という文章を読んで、家まで丁重に持ち帰ることになった。〈この物語の一ページをひらいてしまった〉のだった。
ある早朝、主人公・アイシテルと石ころ型ロボットのイッシー、ともだちのボコボコが大地震の〈ゼンチョウ〉を捕まえにいくところから物語がはじまる。怖い人物とうわさされる風博士を訪ねたり、アイシテルトーサンの夢をかなえるためにムシ共和国に行ったり、アイシテルを中心に冒険がくりひろげられる。
アイシテルはけっして強い男の子ではない。大地震の〈ゼンチョウ〉を捕まえにいくときには〈「ぼくはまってるよ。」〉なんて言うし、風博士のもとに行くときには〈「あ、ちょっとまって。ぼく、どうしようかなあ……。」〉なんて言いだす。けれども、イッシーとアイシテルトーサンは、アイシテルはなにもできなくてもそばにいるだけでいいと言う。そばでいるだけでいい存在というのはなかなかなれるものではない。きっと、それがアイシテルが持っている強さだ。
これがはじめて買ってもらった本だった。ひさしぶりに読みかえしたら〈ただそばにいることしかできないから、こころの底からそばにいる〉ということばを見つけた。いつもは貼らない付箋を貼った。あのころは気づいていなかったけれど、こころにすとんとおさまることばに触れることができたから、わたしは読みつづけてきたのだろうし、これからも書きつづけるのだろう。